発掘

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発掘に使えるのは正味4日。埋め戻したところを全部露出させて、その周りや下を掘ってめぼしい化石を見つけ、持ち帰りたいのだ。化石はモンゴルの研究所に送られて クリーニングされて研究材料となる、はず。ぜひとも研究材料になり得る化石を掘り出したい。

発掘1日目:土をどける

まずは、以前埋めたところを掘り返す。 竜脚類が埋まっているはずだ。Kさん作成の”化石の産状図”をもとに、目印となるモノから巻き尺で線を引いて場所を特定していく。この”産状図”は2016年〜2019年の発掘まで全部がまとめて手書きで記載されているものだ。Kさんの緻密さには脱帽だ。

掘り返しにはツアー初参加の大学生のおふたりが大活躍! 延々と掘って、埋め戻したときの黒い袋が見えてきた。

朝は25℃くらいだったが、ぐんぐん気温が上がってお昼には40℃くらいになった。炎天下で作業していたら、モンゴルスタッフがタープを設置してくれた。タープの下の作業は快適。
土をどけている最中に 獣脚類の歯が出てきたりしていた。歯が出ると一気にテンション上がる。ひたすら掘る作業にも力が入る。

タープの外側で作業していたEさんがちょっと暑さにやられたようだった。水をかぶったりして自力回復していた。このツアー初参加のメンバーだが、さすが、地学・古生物学経験者は対応力が高い。

私はタープの下で、高橋さんから引き継いだ骨の断面が見える部分の周りを掘っていた。Eさんのアドバイスで、見えている化石部分に硬化剤をかけ、トイレットペーパーで保護して、周囲を切り崩しをはじめた。アドバイス助かる。何年もモンゴルに通っていても所詮私は素人だ、年1回では基礎訓練が足りない(^^;

15時過ぎに雷が鳴りはじめて、遠いから大丈夫だと思っていたのだが、17時過ぎにモンゴルスタッフが「ストームがくるぞ!」と。あわてて道具を片付けてテントに退避した。すごい風が吹いてきた。
途中、充電中のデジカメやらなにやらが外に出たままだったのを思い出して回収しに走った。雨が大粒で結構服が濡れてしまった。さしあたって機材は無事だった。

嵐は30分くらいで通り過ぎた。雨は量も少なかったので水たまりはできず、引き続き作業した。

発掘2日目:周りを掘る

前日に自分が掘っていたところは、薄い骨で貴重部位かもしれないので持って帰ろうということになった。 ジャケットするためにはもっとスペースを作らなければいけない。ペースを上げて周りを掘る。ひたすら掘る。

イデルさんが、資料を持ってきて、今見えているのがどの部位か予想したりして、掘り進める計画を立てる。

周りを掘っていくと次々に化石が見つかって「どこで切れば〜!?」っていう状態になってしまう。薄い骨の周りはなんとかパンケーキ状になった。

発掘3日目:ジャケットする

この日の朝、日の出前にEさんは フォトグラメトリー用の写真を撮っていたそうだ。前の日に試しに作ったやつの修正版とのこと。3D画像を作るにはちょっとコツがあり、影が濃くならないように撮り直ししていたのだ。

拡大できるように何枚も近づきながら撮影
三脚を使って露出高めに撮影
日陰ができると真っ黒になってしまうので、陽の出る前に撮影

写真から3D画像を作るのはSurfaceでやっていた。そのレベルの機材でできちゃうんだ!

日中は42℃まで上がった。湿度が低いので日陰にいればそれほど辛くはない。

ジャケットには麻布を使う。それを適度な大きさに切らねばならない。また、石膏を溶かすのに水を使う。モンゴルスタッフがどこからか水を汲んできた。緑だ。そこに、粉末緑茶を溶かした500mlの水を並べたら色がそっくりだった! 藻の色! 緑茶は藻の色!!

モンゴルの研究員がなにやらそのへんの土をふるいにかけ、水を入れてこね始めた。練り練りしていると粘土のようになった。それをジャケットする化石(ペーパーで保護してある)のくぼみにいれて凸凹をなめらかにする。なるほど! その上から石膏を浸した麻布でくるみ、ジャケットをつくる。

ジャケットが乾くと、表面に印や文字を入れる。まず、方位磁針で測って方位の印をつけていた。書くのにはインク(墨?)と筆を使っていた。マジックでも書けないことは無いが、凸凹した石膏にはうまくいかないことがある。

ジャケットしたかたまりを取り除いたところになにやら露出している化石があった。イデルさんが詳しく調べる。トイレットペーパーを頭の支えにしているところがウケた。
取り出したジャケットは近くで見つけたかけらも一緒に入れて裏側もジャケットして封印した。

ここまでくると、もうやたらと掘るわけにはいかなくなる。見つけても掘り出す時間はないからだ。
もうひとつジャケットを作ったら終わりだ。化石をジャケットできる状態に持っていくのには、スペースの都合で全員が関われるわけではない。暇になる人が出てくるということだ(^^;

Kさんは今回、ドローンを持ち込んで空撮するつもりでいたのだが、Eさんが作ったフォトグラメトリー画像のほうが断然よいとショックを受けていた。アップにしたときの解像度が全然違うとのこと。まあ、原理的にそうだが。でも、一応ドローンを飛ばしてみていた。かなり強い風が吹いていても吹き飛ばされない。さすが今どきのドローンは性能がいいねぇ。

暇組(?)は、化石パズルして遊んでたりした。古生物修行中の学生さんより、化石のかけらを扱い慣れた非専門家のほうがパズル完成スピードは速かった。知識より場数ということかも。

もうひとつのジャケットも、粘土で凸凹を埋めて完成。夕方にはひっくり返せるかと思ったが、いまいち乾きが悪いので、ひっくり返しは翌日になった。

ジャケット番号の付け方について、イデルさんから伝授があった。次からは「JKではなくPL(PJだったかも…)」にしてほしいと。彼らはジャケットを3種類に分けているらしい。おそらく、ジャケットを開けるときの扱いが違うからだと思う。

  • プラスター(plaster=石膏)
    • 普通の石膏ジャケットのこと
  • ギプソナ(gypsona:商品名)
    • 医療用に人間が使う包帯と石膏が一体になったやつ(石膏包帯)
  • モノリット
    • 木枠などで囲って石膏を流し込んだもの

夜に雨が降りそうとのことで、出来上がっていた小さいジャケットはテントに運ばれ、まだ乾いていない大きいジャケットはビニル袋が被された。案の定、夜は雨風がすごかった。

発掘4日目:うろつく

発掘場所は嵐の悪影響はなく、無事に大きいジャケットもひっくり返して、裏側の不要な土や余ったジャケットの縁を取り除いて、ジャケットで蓋をした。ジャケットした以外にも大きい化石がたくさんあったのだが、とても掘りきれないので厳選した感じだ。

掘った跡は埋め戻した。また掘りにくるかもしれない(来ないかもしれない)。

発掘仕事は終わったので、午後はプロスペクト、というと聞こえがいいが、私の場合はただの散歩だ。そこらへんに原生動物の白骨が転がっていたり、ラクダの足跡やバイクの轍があったりする。スマホアプリで過去に印をつけた場所に行ってみたり、「見渡す限り」を撮影して VIVANTごっこしてみたり。
ちなみに私が使っているのはGeographicaという登山の人用のアプリで、GPS情報を記録するのには重宝している。ただし、UIがわかりにくくてしょっちゅう操作を間違えるし、久しぶりだと思い出せなかったりする(^^;

プロスペクトとは名詞だと「見通し」だが動詞だと「捜し求める」、めぼしい化石を探して歩き回ることを指す。このツアーリピーターのK氏は文字通りプロスペクトしていて、彼の歩いた跡は、ノジュールがことごとくひっくり返されてたりする。

発掘の話はここでおしまいである。

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