南ゴビ恐竜発掘ツアー

プロトケラトプスの絵
1997年8月7日〜20日


概要化石探し発掘すとーりーキャンプ生活観光


掘って、固めて

 さていよいよ掘り出し作業である。最初は襟飾りの上の部分だけが出ていたというプロトケラトプスだが、午前中の博士たちの作業の結果、顔の左半面がかなりきれいに出ている。凄いぞ。このままだと全身埋まっているかもしれない。
 まずはバルスボルド博士から「このレベルまで周りを掘れ」という指示をもらって我々は土木作業に入る。化石に近い部分は博士とアルンチムグさんの独壇場、我々は手が出せない。で、結構眺めている時間が長かった。
 頭部は襟飾りの上の方は欠けていたが、顔の反対側の面もちゃんと残っていたし、肩の骨も出てきた。これは全身骨格だ!
 石膏のジャケット作りの段になるとドライバー氏が登場、慣れた手つきで麻袋を割いた布に石膏をつけて、切り出した塊に巻いていく。うーん、ここでも我々は手を出せない。石膏が乾かないうちに素早く作業しなければならないので、初めて作業を体験する連中に構ってられないのだ。

<ゴビ滞在3日め午後>
[写真:硬化剤をかけているところ]
1.まずは硬化剤をかける。
[写真:露出した顔]
2.プロトケラトプスの顔が露出したところ。
[写真:周りを掘る]
3.化石の周りを掘り下げる。
[写真:専門家の独壇場]
4.化石に近い部分はバルスボルド博士とアルンチムグさんにお任せ。
[写真:新聞紙でくるむ]
5.湿らせた新聞紙で化石を保護する。
[写真:布を巻く]
6.石膏を浸した布を化石に巻き付ける。
[写真:見守る人々]
7.博士たちの作業を見守る。

<ゴビ滞在4日目>
[写真:発掘現場遠景]
8.発掘現場へ向かう。
[写真:一丁あがり]
9.一晩乾かしたプロトケラトプスの頭を胴体から分離する。
[写真:胴体]
10.午前中に石膏をつけた胴体。
[写真:胴体の裏]
11.胴体を裏返し、余分な砂をそぎ落とす。

作業のここまでで、1週間プランの3名は帰らなければならなかった。南ゴビからウランバートルに戻る飛行機は朝早く発つ。そのため、今夜中にツーリストキャンプへ戻らなければならないのだ。この化石の発見者S氏もいなくなる。居残り組はちょっと心細かった。

<ゴビ滞在5日目の午前>
[写真:ゲルの中の頭骨]
12.ゲルに鎮座する頭骨のジャケット。朝食を食べた後、博士がジープで出発。頭骨をウランバートルへ運んでいった。
[写真:できあがり]
13.午前中に掘った尻尾の部分とジャケッティングした胴体。尻尾がちょっと足りなかったけど、これでまるまる1匹おしまい。

アラグ・テグ

 5日目の午後はキャンプ地から北へ4kmほどのアラグ・テグという場所にいってみた。ほんの数分だが、ジープ1台に7人乗って、結構苦しいものがあった…。アラグ・テグとは「色とりどりの崖」という意味で、ツグリギン・シレの一部といいながらキャンプ地あたりとは違って赤っぽい。当然ながら土壌も違う。砂ではなく土である。そして、見つかる化石もピナコサウルスハドロサウルスだという。ここは日中蒙の3国調査隊が入ったところで、見つかったハドロサウルスは中国でクリーニングされているが、まだハドロサウルスの中の何という属かはわかっていないらしい。
 もう石膏もないし、時間もないのであまり真剣に化石を探すつもりはなかった。見つけてもどうにもできないからだ。とはいえ、やっぱ体は化石を探している。と、ドライバー氏がかけらを持って私のところにやってきた。こっちに来てみろという。いってみると、骨のかけらが散らばっていた。前に掘った跡らしい。ここの化石はキャンプ地近くと違って赤紫がかっている。骨というよりできそこないの焼き物のようだ。
[写真:瓦礫か?] またひとりになってぶらぶらしていたら、瓦礫の山が目についた。よくみると瓦礫の中に化石っぽいかけらもある。変だなと思って刷毛ではいているとまだまだ下に…。これはピナコサウルスの背中か、と思ってどんどんはいていたら、ごろっと脚か腕の関節部のような化石がでてきた。そのうち人々が寄ってきて掘り始めた。そしてきれいに2本並んだ長い骨が…。
 その長い骨ははじめアルンチムグさんが掘っていたが、途中で私に交代した。ここの化石はまあまあ堅くて私が触っても壊れない。当初は肋骨かと思ったが、先までいくと少し太くなっている。こいつは肋骨じゃない。それにどうも曲竜っぽくない。私は骨を見る眼力はあまりないのだが、その私でも中里のサイカニアに全然似てないと感じる。どうやらハドロサウルスの坐骨を掘り当てたようだった。
[写真:多分腸骨] 結局、寄ってたかって露出させたのは腰のあたりの骨の一部だった。下にはもっと埋まっているかもしれないが、いずれにせよ部分化石だろう。化石には硬化剤をかけ、ビニール袋を開いたものを被せて埋め戻した。何かの機会にまた掘り出すかもしれない。見つけた化石の価値はともかく、自分でも見つけられるようになったことがうれしい。

 

最後もプロトケラトプス

[写真:プロトケラトプスのふち] 6日目の午後にはツグリギン・シレを立たなくてはならない。午前中はS氏がみつけた別の化石を掘ってみることにした。掘るといっても、どんな化石か分かる程度に、ということである。こいつは最初からプロトケラトプスくさかったが、予想通り、襟飾りの後縁と思われる部分(写真:白枠内)が出てきたので「プロトケラトプスね」ということで作業はおしまいになった。あとはウダノケラトプス(多分)を回収して終わり。崖の下を回ってキャンプ地まで戻ることにした。やっぱり体は化石を探しながら…。
 キャンプを設営した台地の下には川筋があり、緑がある。鳥も飛んでくる。上空で水鳥っぽい鳴き声がした。なんとツルが飛んでいた。沙漠でツルだ…。

 これで発掘の話はおしまい。バルスボルド博士は今回の収穫に気をよくして、来年は西ゴビでどうか、といっていた。ここほど風はないが暑いらしい。タルボサウルスなど大型の恐竜の出るネメグトあたりも西ゴビというらしいが、そのさらに西に行くとジュラ紀の地層になる。モンゴルではジュラ紀の恐竜化石があまり出ていないが、それは調査が進んでいないからで、この時代の化石が見つかればアジア大陸での恐竜進化の解明に大いに役立つという。しかし、ジュラ紀の層はツグリギン・シレのように化石がざくざく出るところではないらしい。暑くて化石が少ない。そんな過酷なところに挑戦してみたい人は…、とりあえず意思表明してください。こんなプライベート発掘ツアーが開催できるのもバルスボルド博士が元気なうちです(還暦過ぎの博士は私なんかよりよっぽど壮健ですが…)。私は…、来年も挑戦するかどうかは未定だけど、きっと行っちゃうんだろうな。

旅行の話はまだ続く→


[↑]トップへ戻る
Aug. 8, 1998
Last Modified: Sep. 19, 2001

Copyright(c) Nekomatagi, 1997-2001