南ゴビ恐竜発掘ツアー

プロトケラトプスの絵
1997年8月7日〜20日


概要化石探し発掘すとーりーキャンプ生活観光


ツグリギン・シレまで

 ウランバートルから南ゴビ県の中心地ダランザドガドまで飛行機で約1時間、そこからジュルチン・ゴビ社のツーリストキャンプまで車で約1時間。ツグリギン・シレはそこからさらに車で2時間の地点にある。我々はツーリストキャンプに1泊して、次の日にキャンプ地へ向かうことになっていた。
[写真:ジープ] キャンプ地へ出発する日は朝から強い風が吹いていた。昨日建ててきたゲルが心配だとアルンチムグさんがいう。彼女はモンゴル古生物研究所のスタッフで今回の我々の指導者である。我々が鷲の谷観光(後述)に行っている間に、キャンプ地設営に出かけていて、夜中にツーリストキャンプに戻ってきていた。風を心配しつつ、7人の日本人とガイド兼通訳のツェツェさん(本当の名前はツェツェグダリ)、アルンチムグさんの計9人はジープ2台に分乗し、北へ向かって出発した。

[写真:砂丘] ツーリストキャンプの辺りは草原といった趣だ。1時間ほど走るとラクダの群れがいた。そこで一時休止。さらに走ってボルガンという小さな町を通り過ぎた。ツグリギン・シレは沙漠と聞いていたが、ちっとも沙漠っぽくなってこない。去年のフルンドッホとあまり変わらない感じだ。と、目の前に忽然と砂丘が現れた。そこだけ何故か一山の砂丘なのだ。車を降りて、砂丘観光する。といっても、とりあえず登ってみるだけだ。かなり風が強い。絶え間なく吹きつける風に運ばれて砂丘も少しずつ移動しているそうだ。そして、なんと谷を挟んで向かい側の崖の上が我々のキャップ地・ツグリギン・シレだった。

[写真:ツグリギン・シレ]
右の台地がツグリギン・シレ

 

風・砂・化石

[写真:ゲルとテント] 台地の上はさすがに草は少ない。小さな潅木がところどころ生えているだけだ。ゲル2棟とテント1張り、強風にもめげずに建っていた。備品を満載したワゴン車が到着。テントはコックのにいちゃんの根城であった。
 ゲルは見事だ。強風にもびくともしない。その中で昼食をとってからキャンプ地のすぐ南の崖へ化石探しに出発。それにしても凄い風だ。ここの砂は海岸の砂くらいの粗さで、それが風とともに吹きつける。痛い。私は長袖・帽子・サングラス・マスクといういでたちだったが、ゴーグルにすべきだった!南ゴビはフルンドッホより環境が厳しいと聞いていたが、なるほどこの風はたまらない。逆に風以外は暑さも乾燥もたいしたことない。今年は雨が多いといっていたのでそのせいかもしれないが…。
 肝心の化石はというと…。ただでさえ節穴の私は、この風で何も見つけられない。他の人が見つけたかけらを眺めるだけだ。とはいえ、ここはフルンドッホより化石密度があるようで、仲間は次から次へと化石を見つける。ってなわけで、風と砂にもめげず、みんな夕食時まで崖下をうろついたのであった。

プロトケラトプスの散乱死体

 キャンプ地2日目の朝はうって変わって穏やかな天気。この日の午前中はキャンプ地から西へ車で移動して延々と歩いて戻ってくるというコースだった。相変わらず私の目は節穴状態なのだが、仲間は見つけるわ、見つけるわ、それがみなプロトケラトプス。襟飾りと大きさをみれば、しろーとでもプロトケラトプスとわかるくらいの形をとどめた化石が散らばっている。散らばっているのに私の目に入らないは何故だろう。

[写真:発掘フィールド][写真:散乱化石]
左は発掘フィールド、右はプロトケラトプスの化石

 たまたま同じところを歩いていたHYPERSAURSさんがプロトケラトプスの頭骨を見つけた。頭の上半分くらいがなくなっているようにみえるし、頭骨が逆さまになっているようにもみえる。なんだかわからないが、まわりをちょろちょろ掘ってみる。ただ、私が触ると化石が壊れる…。そのぉ、触り方が粗雑なせいだとは思うのだが、どうも、いけない。ツグリギン・シレは掘っても掘っても砂である。7000万年近く前の砂のはずなのに、砂岩といえるほど堅くなっていない。そのせいか、化石も非常にもろい。ものによっては指でぶちぶち潰してしまえるくらいだ。硬化剤をかけながら作業しないと危ないのである。
[写真:アクションカメラ!?] ということで、私はかなり長いこと手を出さずにアルンチムグさんとHYPERSAURSさんの作業を眺めていた。化石を探すのが好きな人もいるが、私はそもそも化石が出てくるところが見たくて発掘ツアーに参加しているのである、他人が見つけた化石でもうれしい。それをアルンチムグさんが丁寧に露出させていく過程はすごく興味深いのであった。
(写真:アクションカメラするHYPERSAURSさん)

 その日の午後にはバルスボルド博士が到着した。フルンドッホから630kmの道のりをジープでやってきて、前の晩はツーリストキャンプにとまったらしい。ドライバー氏もご苦労だが、通訳兼秘書(?)のオユンナさんもご苦労なことで。
 昼食を食べている間に、どんどん風が強くなり、外は砂嵐状態になってきた。普通、発掘隊は効率が悪いのでこんな日には発掘作業はしないらしい。短期決戦の我々はそれでも化石探しがしたい。博士は天気が悪いのは山の神様にお供えをしなかったせいだという。なんでも、ここらでは乳製品を供えたり、お酒を捧げたりするとか。
 博士がお酒を捧げたせいかもしれない、昼食後、博士の話を聞いているうちに、風が弱くなってきた。出発予定の4時頃になったら天候は回復していた。さっそく、午前中までに見つけた化石の鑑定をしてもらう。
 鑑定の結果、どいつもこいつもプロトケラトプス。このあたりはとにかくプロトケラトプスが多いので、壊れかけた化石では研究の価値がない。ちゃんと埋まっているプロトケラトプスか、部分化石だったら獣脚類のやつを見つけなければ。
 2つだけプロトケラトプスじゃないやつがあった。1つはS氏が見つけた石膏の塊のようなやつ。それは石膏ではなくて、タルボサウルス級にでかい恐竜の化石だった。でも、部分的すぎて何だかわからない。もう1つはMinewさんがみつけた小さい肉食恐竜の歯。ヴェロキラプトルの歯だろうということだった。いずれも断片的過ぎて、研究材料にはしてもらえなかった。

 

埋まっている化石を狙え

 散乱死体には目を奪われてはいけない、しっかり埋まっている化石を探さなくては。それには、地表にちょっとだけ出ている化石を探さねばならない。私には無理難題ぽい。が、くじけている場合ではない。発掘3日目はキャンプ地西側の斜面を探すことになった。
 探し方は人それぞれだ。ここの化石は白くて目立つので、見える人には遠目でも見える。だから、ずんずん歩いて行ってしまう人もいる。が、私は目をこらして地表を舐めるように見ていくことにした。ここにきて、ようやく化石が目に入るようになってきたところだ。テンポは遅くても確実に見つけたい。
 この場所はポピュラーな発掘地らしく、掘り出した跡や化石を固めた時の石膏のかけらが散見される。この石膏が骨に見えるから困る。これも分かる人には分かるらしいのだが、私はこいつのせいでだいぶ時間を浪費した。
 2時間近く歩き回って疲れがきた頃、私にもツキが回ってきた。怪しい塊を蹴ったら化石だったのだ(本当は蹴って壊したりしたらいかんのだが)。そこにしばし腰を下ろして周りを掘ってみる。実際は掘るというより、刷毛でまわりの砂をどかしていくのだが。

 ここでの化石探しの手順は:  
  1. とにかく、かけらをみつける
  2. かけらのまわりの砂を刷毛でどかす。化石のすぐそばだけでなく、周辺もはいてみる。
  3. 刷毛でどかない堅い部分は、金串やアイスピックで掘り返し、掘り返した砂は刷毛でどかす。こうやって、かけらが体のどの部分かがわかるくらいまで露出させる。
  4. どの部分かがわかったら、埋まっている姿勢を推定する。
  5. 推定に基づいて、さらにまわりを掘り、化石が出てきたらそこで掘るのをやめ、また別の部分を掘る。

 だいたいは、3の段階でもっと埋まっていそうだとわかったら、スタッフを呼ぶことになっている。
 化石はある程度ブロック化して母岩と一緒に掘り出さねばならない。でこぼこした形だと壊さないように梱包するのが大変なのだ。まあ、基本はそうなのだが、こちらはどの部分の骨かが知りたくて、結構掘ってしまったりする。

 この日の午前中はかなりの収穫があった。特にS氏のみつけたプロトケラトプスの頭骨がかなり有望だということで、午後はその発掘作業に当てられることになった。口の先の形状がしっかり残っているプロトケラトプスは珍しいんだそうだ。他にもW氏が大きなプロトケラトプス(ウダノケラトプスかもしれない)の部分化石を見つけ、これも後日ウランバートルに持って帰ることになったのだった。

続く→


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Aug. 8, 1998
Last Modified: Sep. 19, 2001

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